東京地方裁判所 昭和47年(借チ)1046号 決定
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〔主文〕1 申立人が、相手方に対し、本裁判確定の日から三月以内に金一四万円を支払うことを条件に、別紙目録(一)記載の土地に関する賃借権を東京都千代田区外神田六丁目一三番一四号江川嘉明に譲渡することを許可する。
2 右土地に関する賃料を本裁判確定の日の属する月の翌月分から3.3平方米当り一ケ月一四〇円に改める。
3 本件増改築の申立を却下する。
〔決定理由〕1 申立の当否
……申立人が本件土地賃借権を江川嘉明に譲渡しても相手方の不利になるおそれはないと認められるので、本件申立のうち土地賃借権譲渡許可の申立は、これを認容すべきであるが、本件借地契約上増改築制限に関する特約が存しないことについては当事者間に争がないのであるから、増改築許可の申立は、非訟の対象を欠き、不適法であるので、却下すべきである。
2 土地賃借権譲渡許可に伴う附随処分。
鑑定委員会は、低地価格に資本利回り五%を乗じ、これに固定資産税等の諸経費を加算したものを経済賃料とし、本件の場合、従来の実際支払賃料が右の経済賃料に及ばないところから、借地契約後現在までの間における経済賃料と実際支払賃料との差の総額を求め、財産上の給付は、衡平の観点から、右差額の二分の一とするのを相当とする。差額の二分の一とすることが何が故に衡平になるのかの疑問点は別として、鑑定委員会の右の考え方には、二つの点において首肯しかねるものがある。一は、経済賃料なるものの想定であり、二は、財産上の給付を低地代の補充とすることである。地代は土地使用の対価であるので、土地と地代との間には元本と果実との関係があるが、鑑定委員会は、この場合の元本を、土地そのものとせずに、土地価格の一部である底地価格としているようであるが、継続地代とはいえ、地代についての右のような考え方は許されるのであろうか。経済学では、地代発生の根拠を超過利潤に求め、地代は超過利潤の転化したものであるとする。すなわち、地代の源泉を、土地使用により得られる収益に求め、土地の価格に求めてはいない。地代に関する経済学の理論は十分理由があると思われるので、それとは別に経済地代なるものを想定するには、その理論的根拠を明らかにすべきであり、しからざるかぎり、経済地代なるものを容認することはできない。また、本件の地代は、後記の如く、近隣の地代に比較して著しく低額であるが、それは当事者が合意で定めたものであり、第三者である鑑定委員会なり裁判所が、当事者の意思によらずに、過去に遡つて地代を修正することはできないのであるから、財産上の給付を低地代の補充と見るのは理由のないことである。
土地賃借権の譲渡許可にともなう財産上の給付を如何に把握すべきであろうか。賃貸人が特定人に対する借地権の譲渡を承諾することは、その特定人に限り譲渡性を付与することであり、そのかぎりにおいて借地権の権利内容が変更することである。譲渡許可の裁判も右と同じことであるので、財産上の給付は、譲渡性という新しい権利付与の対価と解すべきである。巷間の名義書替料あるいは譲渡承諾料といわれているものは、譲渡性付与の対価と見れば、それなりの根拠はある。しかし、巷間の譲渡承諾料を譲渡性付与の対価と見る者は殆んどなく、その根拠を、譲渡利益の配分あるいは低地代の補充と見る。低地代の補充については、その理由のないことは先に述べたが、譲渡利益の配分という考え方は、全く理由のないことである。借地人が借地権を第三者に譲渡し、借地権価格相当の金員を入手しても、その一部を賃貸人に配分する義務もなく、また、賃貸人において配分を請求する権利もない。借地権価格でも自然発生的といわれるものについては、借地人においてもその一部を賃貸人に配分しやすい気分になるかもしれないが、物価問題懇談会が提案するように、このような不労期待利益を地主に帰属せしめる考えそのものをきつぱり断つべきである。そこで、譲渡性付与の対価はいかにあるべきかということであるが、それは、譲渡性付与前の借地権価格と譲渡性付与後の借地権価格の差として捉えるのが正しいと考える。譲渡性の付与といつても、特定人に対してのみ譲渡性の付与であるので、賃借権が地上権に変わるわけではなく、譲渡性付与の対価は、地上権価格と賃借権価格の中間に位置することになるであろう。実際問題として、この位置をどこに求めるかは困難と思われるが、地上権の価格は、事例が尠いとしても、不動産鑑定理論を駆使して求めることができるのではなかろうか。地上権の価格が求められれば、財産上の給付の上限は、地上権価格と賃借権価格との差となり、右の差額以上を財産上の給付とするのは不当であり、また、右の差額がない場合は、財産上の給付は不要となる。
以上説明した如く、借地権の譲渡許可にともなう財産上の給付を理論的に算定することは、現状では困難であるが、鑑定委員会の示した給付の額そのものは、従来の裁判例からしても特に不当とするものでなく、当事者双方も不服がないのであるから、財産上の給付を同委員会の示した金一四万円とする。
同委員会は、比準賃料を参考に、地代を3.3平方米当り一ケ月一四〇円に改定するのを相当とするので、地代をそのとおり改定することとする。
目録<略> (小山俊彦)